【第2回|音楽療法シリーズ】うちの子にも効果ある?音楽療法の実際の効果と事例を音楽療法士が公開
- 豊留 侑莉佳
- 10月10日
- 読了時間: 14分
「音楽療法って聞いたことはあるけれど、うちの子に本当に効果があるの?」「集団が苦手な子でも参加できるの?」

そんな疑問をお持ちの保護者の方に向けて、前回に引き続き、当施設の音楽療法士にインタビューを行いました。実際の事例を交えながら、音楽療法の効果や取り組み方について詳しくお話しいただきます。
今回インタビューした先生

お名前:オダシマ先生
所属・肩書き:多機能型児童発達支援施設やさしい森のポロ 常勤音楽療法士
プロフィール:現場で日々子どもたちと向き合いながら、一人ひとりの個性に合わせた音楽療法を実践。保護者の方と共に子どもたちの健やかな成長を願いながら、音楽の力で子どもたちの可能性を引き出すことに情熱を注いでいる。
目次
集団が苦手な子でも音楽療法に参加できる?
編集部:
前回は音楽療法の基本についてお話しいただきましたが、実際に「集団療育はオーダーメイド」とおっしゃる中で、集団が苦手な子でも参加できるものなのでしょうか?
オダシマ先生 :
はい、大丈夫です。皆さんと同じように活動することが難しくても、その場で様子を見ていることも充分、参加と言えます。集団の中で発揮することが難しいお子さんには、所々でその子が得意なことを差し込むことで、集団の中でできることがあると自信がつきます。その後にステップアップしていくんですね。
編集部:
それは心強いですね。音に敏感な子の場合はどうでしょうか?
オダシマ先生:
音に敏感な子には、音との出会いをより慎重に行います。使う楽器を選んだり、音の大きさや速さ、同時に鳴る音の数を調節したりして、その子が受け入れやすくなるように配慮します。
よく「集団と個別、どちらが良いか」と聞かれますが、どちらにも良さやねらいはあります。集団に参加できるようになることがゴールというよりは、集団の中でその子らしさが発揮できると良いなと感じます。それは何かすごい事ができるということではなく、安心して自分らしく居ることができたり、好きなことや得意なことを自信を持って表現することができたり。個別は、そこに向けた通過点的な意味合いもあると思います。
編集部:
なるほど。段階的な目標設定があるということですね。
オダシマ先生:
そうです。まず、
集団の中に居ることができるところから始まり
集団の中で他者の発信や意見を受け入れることができる
集団の中で自己発信ができる
という風に進んでいきます。
大人になるにつれて、学校や職場など、生活する集団は大きくなりますからね。
編集部:
保護者の方からは「友達と仲良くなってほしい」という希望もよく聞くのではないでしょうか?
オダシマ先生:
もちろん、そういうニーズはよくいただきます。相手と自分の違いを認め、それぞれの良いところに気がつき、他者も自分も受け入れられるような社会性を身につけることが大切だと思っています。
音楽活動の中で、そんな経験ができることを願っています。
編集部:
それは大切な視点ですね。
オダシマ先生:
プログラムを立てる時も、場面場面で参加しているそれぞれの子の顔を思い浮かべながら組み立てているんです。一回のセッションの中で、みんながどこかで活躍できる場面を作ることを心がけています。
セッション時間はどのくらい?個別と集団の違いは?
編集部:
具体的なセッションについて教えてください。一回のセッションはどのくらいの時間ですか?
オダシマ先生:
今までの経験だと、年齢と子どもの集中具合を見ながら、30分〜60分の時間を見ていますね。
ルミウス(児童発達支援)では、運動や机上課題や絵本など、発達に沿った様々な活動のひとつとして音楽を取り入れています。ロスカ(放課後等デイ)のお子さんに対しては、個別とグループで音楽療法を行っていますが、30分~50分程です。
編集部:
集団と個別で時間は変わりますか?
オダシマ先生:
それは変わりますね。個別だと短めになります。内容や距離感が密になるため、お子さんの集中力や疲労具合を考慮して、時間としては短くなることが多いです。
編集部:
個別セッションと集団セッションには、時間以外にも違いがあるのでしょうか?
オダシマ先生:
個別はその子の興味や関心に沿ったプログラムになります。集団は、参加している子の発達段階の間をとるようにプログラムを立てています。3人いたら、3人それぞれがどこかで好きなことや得意なことを発揮したり満足感を得られるようにプログラムを組み立てます。
また、自分ひとりでは興味がなかったりチャレンジできずにいたことも、他の子がやっているから思わずやってしまった、やってみたら楽しかった、そんな経験ができることも集団の特徴です。
大事なことは、個別でも集団でも、一人ひとり子どもの状態をしっかり見ることなんです。
編集部:
親御さんからは、どちらを希望される声が多いのでしょうか?
オダシマ先生:
どちらの希望もあります。親御さんのご希望をお聞きしながら、お子さんの様子を見てスタッフが提案することも多いです。実際にやってみて、こちらの見立てとずれていたり、成長によって違うアプローチが必要になった場合は、また別の提案をさせていただくこともあります。
親御さんの立場にすれば、どちらが良いかわからないから専門的な場所に来ているという方もいらっしゃると思うので、こちらの見立てと親御さんの思いをすり合わせることが大切だと思います。
編集部:
確かに、専門的な判断に委ねたいという気持ちもありますよね。
オダシマ先生:
ポロ(当施設)の場合だと、聞こえとことばの教室を長く続けている阿部耳鼻咽喉科が運営している施設であるという特色があるので、言葉への療育ニーズを入り口に来訪される方もいます。療育の活動の中に音楽を取り入れることで、音楽療法を受けたいと希望して下さる方も出てきました。
効果を実感できるまでの期間は?
編集部:
保護者の方が一番気になるのは、やはり効果だと思うのですが、実感できるまでにどのくらいかかるものなのでしょうか?
オダシマ先生:
これは本当に人それぞれです。すぐに良い反応が見られることもありますし、何年かかかる場合もあります。お子さんの反応を見て、他の専門家と連携してアプローチすることもあります。
編集部:
そういうケースもあるんですね。率直なお話をありがとうございます。
オダシマ先生:
はい。私も数年関わって、ST(言語聴覚士)に関わってもらうことにしたケースもあります。音楽は、直接情動とつながりやすいという特徴を持っているため、音楽的な要素が個人の能力を引き出すきっかけになることが多いです。ですが、音楽は絶対に良い!という思い込みはしないように気をつけています。あくまでその子の成長にとってどんな関わりが必要なのかを考え、音楽療法士ではない専門家の関わりによってその子のよりよい成長が期待できると感じた場合には、必要な機関や専門家につなげることも大切な役割だと思います。
編集部:
とても現実的で正直なお話ですね。そういった姿勢も大切なんですね。
オダシマ先生:
方法論に走らないようにしています。大事なことは今の子どもの成長に必要なことを見極め、持っている力を活かしながら伸ばすことなので。
継続することの大切さについて
編集部:
一方で、継続することで見えてくるものもあるのでしょうか?
オダシマ先生:
療法というと必ずそこに音楽療法士との関係性が存在しています。音楽が好きというお子さんは多いですが、療法として効果を発揮するためには、音楽療法士が子どもと信頼関係を作ることが大切です。
安心して過ごすことができる信頼関係の中でこそ、子ども達はさまざまな表情を見せてくれます。
編集部:
信頼関係が鍵になるということですね。それは確かにある程度期間が必要そうです。
オダシマ先生:
そうです。信頼関係を作りながら一緒に体験を積み重ねていくことが大切だと思います。継続することでわかってくることは多いです。
編集部:
第1回で「音楽療法は音楽を使って何かを達成することが目的」とお話しいただきましたが、その「何かを達成する」というところが気になります。実際、どのような効果があるのでしょうか?
オダシマ先生:
“何か”は、自己表現することだったり、それを他者に受け止めてもらう経験だったり、他者とコミュニケーションをとることだったり、身体表現を通じて体を動かすことだったり、楽器活動を通じて探索を深めることだったり、音楽を聴くことで思い出を味わったり気持ちを高揚させたり落ち着かせたり…。一人ひとり違うということです。成長や発達の過程によって、音楽療法のニーズの変化もあるように感じます。
編集部:
つまり、音楽はあくまで手段ということですね。
オダシマ先生:
そうです。リトミックや音楽教育は「音楽を学ぶこと」が目的ですが、音楽療法は「音楽を使って何かを達成すること」が目的。だからこそ、一人ひとりに合わせてアプローチが変わってくるんです。
心に残る実際の事例
編集部:
これまで担当された中で、効果が見られた印象的な事例があれば教えてください。
オダシマ先生:
神奈川県の施設で働いていた時のエピソードです。担当した当時中学生の自閉症スペクトラムの子で、声を発しないお子さんがいたのですが、音楽に誘発されて声が出るようになりました。それを親御さんに伝えたら、「この子にも声があるということを思い出した」という感想をいただいたことがあります。
編集部:
素晴らしいエピソードですね。親御さんにとっても貴重な瞬間だったんですね。
オダシマ先生:
音楽療法の場面で表現してくれる一面は、ご本人にとっても、親御さんにとっても、貴重な体験になることを実感し、改めて丁寧に真摯に向き合うことの重要さを感じました。
編集部:
他にも心に残っている事例はありますか?
オダシマ先生:
支援学校卒業後に、ご本人の状況やご家庭の事情により、家にこもりがちになった方がいました。それでも、音楽療法は継続して参加してくれていて、グループの他のメンバーと一緒に、活動を楽しむ事ができていました。メンバーの中では、良い味を出してくれるムードメーカーでした。
編集部:
音楽療法だけは続けてくださったんですね。
オダシマ先生:
そうです。家にこもりがちで、事業所や他者とのつながりが持てていないことに危機感を感じたご家族に、音楽療法での様子を見ていただいたところ、その方の可能性(集団の中で生活できる力)を信じて下さるようになりました。関係機関の職員にも映像を通して音楽療法の様子を見ていただきました。その方が人とつながる力を持っていることを確認し合い、家族と支援者が協力して、福祉のサービスに繋がることができました。日中の活動場所への通所や、ヘルパーさんの手助けを受けることもできるようになりました。
編集部:
生活環境の変化にもつながったということですね。ところで、音楽療法への理解は地域によって差があるのでしょうか?
オダシマ先生:
やはり関東での実践が多いです。ですが、秋田県南地域には、長くご活躍されている先駆者の音楽療法士の先生がいらっしゃいます。湯沢市でも、“音楽療法=その先生”という理解やイメージが、親御さんや支援者の中にありました。地方は音楽療法の周知が難しいと言われていますが、先生の実績によって、県南では音楽療法をご存じの方や体験したことがある方が多いように感じます。
音楽療法士になるにはどのような資格が必要?
編集部:
音楽療法士という職業について教えてください。どのような資格が必要なのでしょうか?
オダシマ先生:
音楽療法士は民間資格です。日本音楽療法学会認定音楽療法士が、音楽療法士として活動できることになっています。学会認定の音楽療法士になるためには、学会が定めるカリキュラムを受けないといけません。期間にして大学で4年間。指定されている学校でカリキュラムをこなして、学会の試験を受けるという流れです。
編集部:
4年間ですか。海外ではどうなんでしょうか?
オダシマ先生:
海外では、6年間大学での勉強が必要な国もあります。音楽療法士が、医療チームの一員に入っているケースもあるんです。
編集部:
海外では医療の現場でも求められるほど、音楽療法は専門性が高いアプローチということなんですね。日本でも認知が広がってほしいですね!
ところで、オダシマ先生はなぜ音楽療法士になろうと思われたんですか?
オダシマ先生:
子どもの頃からピアノや吹奏楽を楽しんでいました。漠然と音楽に関わる仕事はしたいと考えていましたが、進路選択で取り寄せた大学のパンフレットを見ていた時、音楽療法のページを開いた瞬間に「これだ!」と思いました。
編集部:
運命的な出会いだったんですね。
オダシマ先生:
その瞬間が高校1年生でした。そこから進路は音楽療法士が第一希望になりました。これまでに出会った、発達のアンバランスさを抱えている子のことを思い出しました。自分が続けてきた音楽で、その子たちとコミュニケーションをとることができるかもしれないと、後付けながら思いました。
編集部:
実際に勉強はいかがでしたか?
オダシマ先生:
大学では、医療・福祉・発達・心理学などの授業、音楽の理論的な授業、ピアノやその他の楽器や歌のレッスン、病院や福祉施設での実習…と、とても忙しくも貴重な学びを得ました。就職してから必要に応じて勉強や練習をして得た知識や覚えた楽器も多いです。特に、発達や特性理解については常に勉強が必要で、追いつかないと思うくらい。出会ったお子さんやご家族から教わることも多かったです。音楽療法士は使える楽器も多い方が良いので、打楽器やギターなども練習しました。引き出しを増やすことは超大事です。
音楽療法だけを受けることはできる?
編集部:
音楽療法に興味を持った方で、音楽療法だけを受けるということはできるんでしょうか?
オダシマ先生:
施設とサービスによるかなと思います。ポロでは現在、音楽療法を希望して通ってきてくださっている方もいます。まずはお問合せいただければと思います!
効果を知りたい保護者の方へ
編集部:
最後に、音楽療法の効果を知りたいと願う親御さんへメッセージをお願いします。
オダシマ先生:
子どもたちが、いろんな体験をすることはとても大事だと思います。音楽がその子の可能性を拡げるきっかけになるかもしれないし、そうではないかもしれない。まずは体験することが新しい一面を知る機会になるので、効果よりも子どもがどんな様子で取り組むのかを見ていただきたいです。いきいきした表情や楽しんでいる姿が見られたら、それはとてもうれしいことですね。
編集部:
「効果」にこだわりすぎない方が良いということでしょうか?
オダシマ先生:
そうですね。「できないこと」を突き付けるのではなく、体験したことが積み重なって、できること、わかること、得意なことが増えていくような時間にすることが私たちの役割だと思っています。
まとめ
今回のインタビューで印象的だったのは、音楽療法士の現実的で誠実な姿勢でした。「全ての子に効果がある」とは言わず、一人ひとりの子どもの成長を最優先に考える専門性の高さを感じました。
音楽療法は子どもの新しい一面を発見し、「できること」を作り出す可能性を秘めた療育方法です。集団が苦手な子でも段階的にアプローチでき、継続することで深い信頼関係を築くことができます。
「うちの子に合うかな?」と迷われている方は、まずは体験から始めてみませんか?お子さんの新しい一面を発見できるかもしれません。
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📞お電話でのお問い合わせ:0183-55-8661
📧ホームページからのお問い合わせ:https://www.yasasiimori.com/info
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次回予告:「【第3回|音楽療法シリーズ】言語聴覚士が語る、言葉の発達を促すための家庭でできること」が公開
この記事は現役の音楽療法士へのインタビューをもとに作成しました。お子さんの発達について気になることがある場合は、専門機関にご相談することをおすすめします。
やさしい森のポロでは、秋田県湯沢市を拠点に、お子さん一人ひとりに合わせた療育や児童発達支援、放課後等デイサービスを行っています

見学やご相談は、いつでもお気軽にお問い合わせください。地域の皆さまと共に、お子さんの成長をサポートしてまいります。



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