【第1回|音楽療法シリーズ】子どもの発達を支える入門知識 ― 5分でわかる基本を専門家が解説
- 豊留 侑莉佳
- 9月5日
- 読了時間: 7分
更新日:9月12日
「うちの子、言葉が遅いかも…」「発達が気になる…」そんな不安を抱えている保護者の皆さんに知っていただきたいのが「音楽療法」です。

音楽療法と聞くと、「楽器ができないとダメなの?」「うちの子にも効果があるの?」と疑問に思う方も多いでしょう。今回は、現役の音楽療法士の先生にお話を伺い、音楽療法の基本について分かりやすく解説していただきました。
今回インタビューした先生

お名前:オダシマ先生
所属・肩書き:多機能型児童発達支援施設やさしい森のポロ 常勤音楽療法士
プロフィール:現場で日々子どもたちと向き合いながら、一人ひとりの個性に合わせた音楽療法を実践。保護者の方と共に子どもたちの健やかな成長を願いながら、音楽の力で子どもたちの可能性を引き出すことに情熱を注いでいる。
目次
音楽療法って一体何ですか?
編集部:
まず、音楽療法とは何か教えてください。
オダシマ先生 :
音楽療法とは、音楽が持つ生理的・心理的・社会的な力を活用して、対象者が持っている力を引き出す治療法です。言語聴覚療法や作業療法、理学療法に比べて認知度は低いですが、対象者に良い変化がもたらされるよう、目的を持って行う療法のひとつです。高齢者施設、福祉施設、病院、学校、地域の公民館などで行われています。
現在ポロでは、児童発達支援に通う就学前のお子さんや、放課後等デイサービスに通う小学生を対象に音楽療法を行っています。
編集部:
テレビで見る「歌のおねえさん」とは違うということですか?
オダシマ先生:
そうですね。子どもの音楽療法場面でのことをお話ししていきます。歌のおねえさんは既成の曲を、予め決められた構成や速さで歌いますが、音楽療法ではその日その時の子どもの状態に合わせて、既成曲や即興曲を使いわけ、子どもの様子によって音楽の調性や速さも変えるという点が大きく違います。一人ひとりに合わせたオーダーメイドのアプローチなんです。
編集部:
なるほど、個人に合わせた臨機応変な対応が重要なんですね。ところで、保護者の方から「音楽教室のリトミックとは何が違うの?」という質問もよく聞くのですが…
音楽教育やリトミックとの違いは?
編集部:
音楽教育やリトミックとはどう違うのでしょうか?
オダシマ先生:
そうですね、一般的な概念による違いはこんなところでしょうか。
● リトミック:音楽スキルの前段階として、表現力とリズム感を身につけることが目的
● 音楽教育:音楽の知識と技術の習得が目的
● 音楽療法:音楽を方法として、個々人の力を引き出すことが目的
つまり、リトミックと教育は「音楽を学ぶこと」が目的ですが、音楽療法は「音楽を使って何かを達成すること」が目的なんです。
編集部:
その「何かを達成する」というところが気になります。実際、どのような子どもに効果があるのでしょうか?
どのような子どもに効果がありますか?
編集部:
どのような子どもに効果があるのでしょうか?
オダシマ先生:
実は、どんな子どもにも効果があります。年齢や発達段階に縛られるものではないんです。大切なのは、音楽療法士が対象者に合っている楽器やプログラムを考案できるかどうか。
対象者によって好む楽器や楽曲が違います。時には楽器の起源まで遡って、その子に最も適した楽器を見つけることもあります。
編集部:
「どんな子どもにも効果がある」というのは心強いですね。特に、発達に不安があるお子さんを持つ保護者の方が気になるのは…
発達に不安がある子どもにはどのような効果が?
編集部:
発達に不安がある子どもの場合はどうですか?
オダシマ先生:
保護者の方が悩まれるのは、コミュニケーションの部分ですね。音楽療法では、自己表現する力と、関係性を築く力を育むことができます。
音楽は言葉を超えたコミュニケーションツールなので、言葉でのやりとりが難しい子どもでも、音楽を通じて「伝える」「受け取る」という体験ができるんです。
編集部:
言葉を超えたコミュニケーション…それは言語発達に不安を抱える保護者の方にとっても希望になりそうですね。
言語発達が気になる子どもにも効果はありますか?
編集部:
言語発達が気になる子どもにも効果があるのでしょうか?
オダシマ先生:
はい、効果があると思います。言語のレベルが違っても、関係性を形作ることに、音楽を役立てることができます。
例えば、一見「ただの叫び声」に聞こえるものも、音楽療法の中では「子どもからの大切な発信」として捉えることができるんです。感情が伴った声を出すことは、コミュニケーションの発達においてとても大切なことです。子どもの声を大切な表現として受け止め、音楽で包みながら伸ばしていきます。見方が変わると、子どもとのコミュニケーションの可能性が広がります。
また、楽器を触ることで探究心を深めることもできますし、楽器を触らなくても「聴く」ことを通じた探究を深めるアプローチもあります。
編集部:
とても興味深いですね。でも実際のセッションってどんなことをするのか、想像がつかない保護者の方も多いと思うのですが…
実際にはどのような活動をするのですか?
編集部:
具体的にはどのような流れで進めるのでしょうか?
オダシマ先生:
基本的な流れは以下の通りです:
アセスメント:まずはお子さんと関わりながら、好きなこと・得意なこと・配慮が必要なことを把握していきます。併せて保護者の方から、生活の様子やこれからの成長に願うことをお聞きします。
プログラム作成:個人の発達の状況や、好きなこと・苦手なことを考慮したプログラムを作成します。
実際のセッション:反応や様子を見ながら進めます。
柔軟な対応:違う反応があれば、その場でプログラムを変更します。
継続的サポート:子どもの“今”の発達段階や欲求とずれていないか、慎重に確認しながら、子どもの力を引き出すサポートを行います。子どもの状況に合わせて、活動を発展させたり、時には安心してできる段階に戻ったりしながら継続していきます。
編集部:
柔軟な対応が大切なんですね。でも「うちの子、楽器なんて触ったこともないし…」と心配される保護者の方もいらっしゃると思うのですが。
楽器が弾けない子どもでも大丈夫ですか?
編集部:
楽器が弾けない子どもでも参加できるのでしょうか?
オダシマ先生:
もちろんです!楽器を使用する際には、子どもたちが興味を持って安心して手を伸ばせるように、出し方や見せ方には細心の注意を払います。また、楽器を弾くことが難しくても、身体の動きや声からアプローチすることもできます。
子どもの発信からアイディアをもらって展開することもたくさんあるんです。例えば:
● あらかじめ用意してきた楽器とは違う楽器に興味を示したり、想定していた使い方と違う使い方をしたりすることもある。
● 子どもが自分から踊り出し、音楽療法士がその踊りに合わせて伴奏する。その伴奏が“自分の踊りのイメージと合っていないので、こんな音をつけてほしい”と伝えてくれる、感性豊かなお子さんもいらっしゃいます。
こういう時こそ、私たち音楽療法士のアドリブ力が試されるんです(笑)。
子どもたちの感性は本当に素晴らしくて、圧倒されることもしばしば。子どもの自発性を大切にしながら、その場のコミュニケーションで音楽を作り上げていくのが音楽療法の醍醐味でもあります。
まとめ
音楽療法は、音楽の力を借りて子どもたちがもつ可能性を引き出す療法です。楽器ができなくても、歌が上手でなくても大丈夫。大切なのは、子ども一人ひとりに合わせたアプローチで、その子らしいコミュニケーションの形を見つけることです。
発達が気になるお子さんをもつ保護者の皆さん、音楽療法という選択肢があることを知っていただけたでしょうか。次回は、実際の音楽療法の現場の様子や、家庭でもできる音楽を使った関わり方についてお伝えする予定です。
次回予告:「【第2回|音楽療法シリーズ】うちの子にも効果ある? ― 音楽療法の実際と事例を専門家が公開」
この記事は現役の音楽療法士へのインタビューをもとに作成しました。お子さんの発達について気になることがある場合は、専門機関にご相談することをおすすめします。
やさしい森のポロでは、秋田県湯沢市を拠点に、お子さん一人ひとりに合わせた療育や児童発達支援、放課後等デイサービスを行っています

見学やご相談は、いつでもお気軽にお問い合わせください。地域の皆さまと共に、お子さんの成長をサポートしてまいります。


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